藤谷千明著『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』

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 地元を離れ、同じく東京で似たような暮らしをしている幼馴染と「このまま独身だったら孤独死だな!」という話を(親の健康状態の話の次くらいに)するようになってきました。

「もっと年取ってお互いこんなような生活をしていたら、近所に住むのはアリじゃない?」

 おのおのの人生を放っておきつつも生存確認し合える距離に住むのはいいかもしれないね、なんて話をよくしている。職場のことや趣味に傾倒することを考えると東京に住むのが今のところ都合がよいが、東京は一人暮らすには家賃は高く、仕事が安定し続けるとは限らない。今後どうやって暮らしていくか、という問題は、リアルにすぐそばにやってきている。

 

 そういった中で拝読したのが、こちら藤谷千明(@fjtn_c)さんの『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』なんですけれども。非常に楽しく読みました。

 

 従来の共同生活を巡る物語は、就職や結婚を迎える前の、モラトリアムを許されたいつか終わる時間、短いからこそ濃密で楽しい青春特有のきらめきとして描かれることが多かったように思います。(私が不勉強という話かもしれないですけれど。イレギュラーな家族の同居生活の小説はたくさんあるのに、若者ではない他人の同居生活の話は多くはない印象です。) 

 

 しかし、本書は37歳独身女性の夜泣きからはじまる。一人で暮らすのは不安、誰か一緒に住もうよ!とはじまる。

 

 著者と同居人の方の行動力により、メンバー、物件、生活様式がビシビシ決まっていく様は楽しい。まとめた記録を読んでいるとはいえ、展開がスムーズ。これには著者を含めたメンバーの皆さんの社会性の高さも感じるんですよね。行動力のあるほうのオタクだから、というより、みんな、ある程度ちゃんとした大人で、節度があり、「仕事」のようにシェアハウス運営を実行していく意思があるのではないでしょうか。勢いとラッキーだけで成り立たないのが、「生活」といいますか。人生の経験値があってこその話の転がり方を感じました。ノリの良さに目を奪われがちですが、参考にすべきはこうした堅実さを読み取れる部分だと思いましたね。

 また、同居者の方々が、コミットすべき時にコミットし、必要ない時は干渉しない、ということが出来る点についても「モラトリアム」以後、という感じがしました。夜中に一人で暮らすことに向いていない、と思い悩むところからはじまるわけで、実際何も悩みがない、ということではないんでしょうが、泣き暮らすのではなく解決に向かっていこうという力強さがある。(すぐスマホで検索して解決方法を模索)

 若く、自分自身が何者かわからないうちは、自信がないゆえに周りが気になってしまい、へんに競争したり、干渉してしまったりする。実際多感な時期は家族とだって折り合いがわるくなりますしね。些細なことに心が揺れて、不用意にぶつかってしまうような時期を通り抜けた人たちの生活なのではないか。だから、こちらも読み物として楽しく穏やかに読めたように思います。一方、同居の当事者になるとしたら、結構問われるな、自分、みたいな気持ちにもなりましたね。

 

思うに、我々は生活は共有しているが、人生は共有していないことが良いほうに働いている気がする。家族愛や恋愛感情などの関係性による、クソデカ感情が挟まらないので、そこに気楽さや快適さを感じているのだろう。要するに「家族だからこうしなきゃ!」といった、思い込みの重力からは解放されているように感じている。もちろん、そういった重力のないご家庭や関係も多数あるのだろうが、私はわりと関係性に思い込みを重ねてしまう面倒なタイプなので。(P146)

 

 また、今後怪我や病気をしたらこの生活を続けられないかも、お互い同程度に元気だから持ちつ持たれつやっている、という記述からも、こうした共同生活も、個人の資質が結構問われるなぁと気づかされました。SNSで知り合って10年くらい繋がっているっていうのが、メンバー選定時の信頼度っていうのは、笑ってしまいました。その信頼感、わかるので。

 

 今後の展開として気になる点としては、時間を経ても、他者に干渉しない精神を保てるのか、ほどほどに距離を置いて暮らしていけるのか、ということ。時には同居以外の人間関係で精神が荒れることもあるかもしれない。また、同居が長くなった時にも「他人」でいられるのか。(「他人」でない何か、になっていくのも楽しいのかもしれない)  もう少し年月を経て慣れてきた頃のもう一回レポートしていただきたいな、と思いました。

 こういった点を考えさせられるのも、文化祭的な一瞬の祭りの読み物(それはそれでいい)ではなく、生活の記録として参考になった点でした。

 

 新しい同居システムの話であるようで、結構個人の資質に関わってくるなぁ、という感想が浮かぶと同時に、今後個人の負担を軽減するような生活が出来るシステムが模索していけたらいいんじゃないか、と主語の大きいことまで思い至りましたね。

 

 そこまで現実的に考えすぎなくても、オタクライフあるある本としても面白く、参考になる部分がたくさんありました。充実した生活の一端を紹介してもらったようで、楽しい一冊です。